HSインタビュー vol.13−2: あさの 千幸さん(オートクチュールデザイナー)「揺るぎない信念がご縁を引き寄せる(後編)」

第13回目のゲストは、オートクチュールデザイナー あさの 千幸さん

Heading Southは、ありたい自分に向かってチャレンジするひとに寄り添い、応援したいとの思いを軸に活動をしています。

自分らしさを大切に、強く美しくしなやかにチャレンジする人々の気持ちを後押しし、そんな素敵なひとが増えることを願ってお届けする「HSインタビュー」の第13回のゲストは、あさの 千幸さんです。

あさのさんは、オートクチュールデザイナー。やんちゃだった中学時代にデザイナーを夢見て、その後、自らが目標としたオートクチュールデザイナーとなるまでに、実に10年超の長い道のりを諦めずに乗り越え、実現させました。

後編となる今回は、ご自身のブランドを立ち上げるにあたり、3人目の人生の恩人となるスーツ縫製工場の社長さんとの出逢いのお話や、オートクチュールデザイナーとしての醍醐味について、そして、かつては中学に殆ど行かず、警察に何度もお世話になるほどの波瀾万丈だったあさのさんが、やんちゃだった頃の思いや、そこから更生し自身の夢を叶えることができた要因などについてお話をいただきました。

是非お楽しみいただけましたら幸いです。

とても気さくなあさのさん。これまでのこと、これから考えていることを飾らずにお話くださいました

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廣田: その後、ご自身のブランドを立ち上げるまで、昼夜で働く生活は続けられたのですか?

あさのさん: そうですね。28歳で夜のお仕事を始めて、4年くらいは昼夜働く生活が続きました。31歳のときに契約デザイナーを辞めていよいよ自分のブランドを始めたのですが、始めた頃は、自分でデザインしたドレスを着てクラブに出たり、お店のママや女の子たちのためにドレスを作ったりしてました。

夜のお仕事を辞めようと考え始めたのは、規模は小さいけど、NYでファッションショーをやらないかとお声掛けいただいて、昼のお仕事が本格的に忙しくなり始めたのがきっかけです。

昼間のお仕事で物理的に忙しくしているものの、正直、夜の金銭感覚でいると、昼間の時間価値がおかしく思えてくるんです。そんなことに悶々としていた頃、私の人生で3人目の恩人とのご縁がありました。

スーツ縫製工場の社長さんとの出逢いを機に、デザイナー一本で生計を立てることを決断

あさのさん: 私の友人がスーツ縫製工場の社長さんを紹介してくれました。「千幸ちゃんはスーツはやらないだろうけれども、いいきっかけになるかもしれないから、話を聞いてみたら?」と。

その社長さんは、「ドレスを作っているなら、スーツも作ったら?」と私に助言してくださいました。ドレスをお召しになる方の隣にエスコートする男性はいらっしゃるので考えてはいたものの、スーツは作ったことがなかったのでできないと思っていました。でも、社長さんが「サポートしてあげるから、やってみなよ」と背中を押してくださったんです。

オートクチュールの見せ場は日本にはないと先ほど言いましたが、商売として成り立たせるには、より日常的に着用されるスーツは必須です。この社長さんとの出逢いによって、ドレスとスーツが展開できるようになり、またそれに必須な縫製工場とパタンナーさんとのコネクションも手に入れることができました。社長さんには本当に感謝しています。

信念を貫く姿勢と夢を語り続けたことが、素晴らしいご縁を引き寄せた

廣田: うわぁ、こうやってお話をお伺いしていくと、あさのさんは素晴らしいご縁によって、目指す道へ引き上げられているんですね。

あさのさん: よく運だけで生きてるって言われます(笑)。

廣田: いやいや、そうじゃないですよ。あさのさんは、恐らく様々なところでご自身の夢や希望をお話しされていたんじゃないでしょうか?また、それを聞いた方が何とかサポートしてあげたいと思うくらい、あさのさんの情熱やこれまでの努力を感じられたからこそ、こうやってご縁を引き寄せているんだと思いました。

あさのさんの信念を貫く姿勢は本当に素晴らしいものがありますね。ご自身の目標だった独立して自分でブランドを立ち上げるまで、パリで学校を卒業されてから、パリで4年、日本で6年近く努力を続けられたわけですものね。本当に尊敬します。

 

お客様がエレガントで美しくなるお手伝いができることが醍醐味

廣田: それほどにオートクチュールに魅了されているあさのさんですが、どの辺に醍醐味を感じられますか?

あさのさん: 一番は、女性も男性もエレガントで美しくなっていくのをお手伝いできるところです。実際に、お洋服を作る前と作った後では全然違うんです。このお客様の意識の変化を見られるところがオートクチュールデザイナーの醍醐味かなと思います。

例えば、男性の場合、派手めなスーツが似合わない方でも華やかさを求めて派手な生地をお選びになられる方には、「あなたにはこのような生地でこのような着こなし方がお似合いになりますしモテますよ」と女性目線でお伝えして、これまでお選びになられていたものと異なる提案をさせていただく。実際お召しになられて評判が良いとご本人も喜ばれるので、段々と着こなしがエレガントになってくるんです。

女性の場合だと、体型を気にされている方は体のラインを隠しがちで、お持ちのブランドも、シルエットがボテっとしているものが多かったりします。体のラインを出した方が女性らしく美しく見えますよ、とご提案しお作りさせていただいたお客様が、これまでお持ちになられていたお洋服を全部捨てられたということもありました。

廣田: えー、素敵なお話ですね。着るものへの意識で人は外見だけでなく、内面も変わりますよね!こういうお話をお伺いするにつけ、お洋服の持つ力を実感させられますね。

既製服ニットブランド立ち上げのきっかけ

廣田: あさのさんは、オートクチュールを展開される傍らで、今年2月にプレタポルテ(既製服)のブランドとしてKNIToDay(ニットトゥデイ)を立ち上げられました。

私は、体のラインが出るスリムサイズの方を色違いで使わせていただいていますが(本日はネイビーを着用)、ジャケットを羽織ればお仕事でも使えるし、着心地もコーディネートも楽ちんで、お世辞抜きにとても気に入っています!

あさのさんがプレタポルテでニットブランドを立ち上げようと思われたのはどうしてですか?

あさのさん: お客様にもっと楽に着られる私らしい服を作って欲しいとリクエストをいただいたことがきっかけです。オートクチュールの場合、体には合っていますが、決して楽に着られる服ではないと思います。で、楽と言えば、ニットだなぁと思いました。

実は、パリの留学時代に興味があってニットの学校に1年くらい通っていました。また、私が美しいと思い、追求したいのはエレガンス。カットソーではエレガンスは表現できないけど、ニットならできる。「プレタポルテをやるのなら、ニットだ!」と決断し、1年くらい工場を転々と探しながら、最終的に腑に落ちたのがこのワンピースでした。

廣田: これ、とても面白いコンセプトですよね。ワンピースとしても着られるけど、ハサミを入れても糸が解けない特殊な編み方でできているから、ワンピースに飽きたら切って、トップスとスカートに分けることもできて、トップスはカーディガンにもできるし、スカートもスリットを入れられる。自分の好きに楽しむことができるんですよね。

あさのさん: はい、そうなんです!ご自身の好きなように楽しんでいただきたいと思っています。白のワンピースは、ご自身で染めていただくこともできますよ!

廣田: へぇ、面白い!今後はラインナップを増やされていくのですか?

あさのさん: 以前プレタポルテのデザイナーをやったときに、シーズンで大量にアイテムを出すことにかなり無駄を感じたので、本当に必要な型数のみ増やして行こうかなと思っています。2022年モデルでは、ベアトップのオールインワンパンツを発表したいなと思っています。

こちらは、004 Rosso di Kermes。朱色っぽいレッドのため、夏の装いにもピッタリです


人の軸をつくるため、食で心が健康になるお手伝いをしたい

廣田: 素敵ですね!さて、あさのさんの今後の展望をお聞かせいただけますか?

あさのさん: 実は、最終的にはライフスタイル全般をやりたいんです。というのは、オートクチュールをやっていて思うのですが、ドレスってその人の軸がないと、着られてしまうんですね。

本来、人はライフスタイルの基盤があって、何にどうお金を使うかが決まってくると思うんですね。衣食住、そこはバランスが取れているはずなんですが……。

例えば、欧州だと、バスの中でルイヴィトンの鞄を持っている人はいないわけです。でも、日本は、団地にポルシェが停まっていたり、とても表面的なところにお金を掛ける傾向が強いと思っていて……。

ライフスタイルがあって、ファッションも成り立つものなのかなと思います。そして、そのバランスが取れている状態を作るためにも、心が美しくあることがとても大切。

心が美しくあるには、良いものを食べ、良いものを着て、良い空間で、良い人と時間を過ごすこと。

衣食住の中でも、食にフォーカスして、特に心が健康になるお手伝いをしたいなと思っています。良いものを食べて、心を健康にして欲しい。幸いにも、父が料理人だったこともあり、食にはもともと強い関心があって、私自身、食生活にはとても気をつけているのと、足長おじさんに様々なところへ連れて行っていただいたこともあり、プロフェッショナルに近い視点で提案ができるのではないかと思っています。

廣田: あさのさんのご指摘には私も同感します。あさのさんはフランスに留学されていたことで欧州の文化に触れられたご経験がおありになることも勿論ですが、足長おじさんにそういう世界を見せていただいたからこそ、感じられるものがあるんじゃないかなと思います。まさに人生の恩人ですね!

人と違うことが劣等感や窮屈感、疎外感を感じるきっかけに

廣田: あさのさんは、学生時代にやんちゃだったところから、将来のやりたいことを見つけて、見事それを実現された方ですよね。お子さんがやんちゃで不安に感じていらっしゃる親御さんや、多感でやんちゃ真っ盛りだけど、将来に漠然とした不安を感じている当人など、あさのさんには、様々な立場の方々を勇気づける力があると思っています。

ご自身の経験から、やんちゃだったことに対する思いや、自分の夢を叶えることができた要因について、振り返ってメッセージをいただけますか。

あさのさん: 自分自身や周りを振り返って思うことは、やんちゃをしている子は、人と違うことが多いと思います。人と同じことをやれと言われてもできないから、劣等感や窮屈感を感じ、また、世の中に対する疎外感から、楽しいことが見出せず、非行に走るのではないかと思うのです。

私の場合は、親が放っておいてくれたことは良かったと思っています。警察にもしょっちゅうお世話になってましたし、親の意思次第では鑑別所に入れられてもおかしくなかったのですが、両親は、ある程度私の意思を尊重し、やりたいことをやらせてくれました。

自分の意思を尊重し、認めてくれたことが救いになった

あさのさん: 母親曰く、「やっちゃダメ」と言うから反発して余計やるということが分かったと。例えば、門限18時や、やんちゃな友達とは会うななどと言われていましたが、そう言われるとルールを破りたくなる。

中学時代は、友達の家にずっと一緒に居たり、逆に、友達が私の家にずっと居ることもあったんですけど、一緒にいると大人しいんですよ。門限を設けられたり、友達と会うなと言われるから反抗する。「それだったら、あなた達ずっと一緒に居たらいいじゃない」と、親同士が話し合って認めてくれました。また、18時だった門限を24時にしてもらったら、その日のうちにちゃんと帰るようになりました。

意思を認めてもらうことで救われた部分がありましたね。

廣田: なるほどなぁ。「信じて手放す」ということですね。親は心配だから、どうしても言いたくなる。でも、それをグッと堪えて、子供を信じて委ねることが肝要ということですね。勉強になりますね。

これは、子供に対する信頼を失くして、子供から逃げたり、放置するのとは全く異なりますからね。あさのさんは、放っておかれる中でも、親御さんからの信頼を感じていましたか?

あさのさん: うーん、正直、そのときはそこまで分からなかったけれども、自分がやりたいと思ったことは大変な思いをしてもやらせてくれましたからね。今思えば、そこには信頼があったのかなと思います。

たくさんの示唆に富んだインタビューとなりました。貴重な機会をありがとうございました!


少しでも興味を感じたら、迷わずにその全てにトライしてみて欲しい

廣田: Heading Southは、ありたい自分に向かってチャレンジする人を応援することを軸に活動しております。あさのさんのようにチャレンジしたいけれど、踏み出せない人、何をやりたいか分からず模索中の方への、アドバイスやメッセージをお願いします。

あさのさん: まずは、自分が好きなことを見つけること。よく、好きなことでは稼げないと言う人がいますけれども、好きなことがなくて稼ぐことだけに集中すると、どこかで気持ちが持たなくなるんじゃないかなと私は思います。全ては「好き」から派生しているのかなと。

大学で就職活動中の生徒たちの前でも話させていただいたことがあるのですが、何が好きか分からないっていう人もいたり、たとえ興味があることがあっても、踏み出すことに躊躇してしまう人も多いと思うんですね。

少しでも自分が興味を持つものがあるんだったら、迷わずに突き進んで欲しいです。しかも興味を持ったことの全てにトライしてみて欲しい。

最初の一歩を踏み出せない人がすごく多くて、すごくもったいなく感じるんです。その一歩を踏み出すと、ぐぐぐっと驚くほど前に進み出すものなのに……。

その一歩を踏み出すために、覚悟と自ら発信することはとても大切

廣田: 私も割とリスクを顧みず踏み出してしまう方なので(笑)、そのぐぐっと進み出す感覚はとてもよく分かります。うーん、踏み出せるかどうか、その違いは何だと思われますか?

あさのさん: やっぱり覚悟なのかなぁ。実は、こんなことを言いながら、今の私もまだ覚悟がないんです。今の状態は、決して生活は楽ではないものの、自分のやりたいことはできてるんですよ。ただ、この状態ではダメで、もう一歩踏み込みたいと思っています。でも、それをすることで、自分の時間を更に奪われることを恐れてしまうというか……。私には6歳になる息子がいるのですが、私の場合は、息子との時間ですね。

自分自身もこの一歩をどう踏み出したらいいのかと考えているからこそ、一歩踏み出せない人のその一歩がどれほど重いのかも理解できるんですね。だからこそ、最初の一歩を踏み出すために、誰かに背中を押してもらうことは大切だと思います。

私の周りでも才能があって独立した方が絶対にいいなと思う友人も、「やりたいんだけど……」と言いながら、やらない。一歩踏み出せば、状況は一変していくことを知らないからだと思うんです。

だから、例えば、こういうインタビュー記事を読んだり、きっかけを自分から探す行動は必要だし、背中を押してもらうにも、自分で発しないといけない。

廣田: あさのさんも、様々なところでご自身の夢や希望をお話されていたからこそ、チャンスを与えてくれる人たちとの繋がりが出てきましたものね。

あさのさん: そうですね。私は苦しいことも隠さずに言うので、さまざまな良いアドバイスも多くいただけました。是非、臆することなく、好きなことにチャレンジする人が増えてくれるといいなと思います。

廣田: 素敵なアドバイスをありがとうございました!




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【プロフィール】

あさの 千幸(あさの ちゆき)
オートクチュールデザイナー

大阪府八尾市出身。
制服が嫌いだった中学時代、美術教師から「自分でデザインしてみろ」と言われたのがきっかけでファッションデザイナーを志す。
20歳で単身フランスに渡り、パリの名門エスモードでオートクチュールを学ぶ。
パリのファッションメゾンで仕事をしたのち26歳で日本へ帰国。
帰国後、日本企業で既製服デザイナーをしたのち2007年に会社設立。
2009年に自身のオートクチュールブランド「asano chiyuki」をスタート。

日本人女性がもつ「大和撫子」の奥ゆかしさとあでやかさをデザイン全体で表現し、女性の体のラインを美しく見せるスタイルにこだわり、京都の絞り染めや日本の伝統技術を取り入れたドレスなどを発表し、日本人デザイナーとして日本の良いものを世界に発信し日本の産業を盛り上げたるため世界各国で活動中。

展開ブランド
asano chiyuki
Inner Beauty Promenade
KNIToDay