HSインタビュー vol.14−1: 藤田 美樹さん(経営者/弁護士)「負けず嫌いと大義をやり抜く力に変える(前編)」

第14回目のゲストは、経営者/弁護士 藤田 美樹さん

Heading Southは、ありたい自分に向かってチャレンジするひとに寄り添い、応援したいとの思いを軸に活動をしています。

自分らしさを大切に、強く美しくしなやかにチャレンジする人々の気持ちを後押しし、そんな素敵なひとが増えることを願ってお届けする「HSインタビュー」の第14回のゲストは、藤田 美樹さんです。

弁護士から、大義を果たすため起業家へ

藤田さんは、リーガルテック業界のベンチャー(新興企業)経営者。リーガルテックとは、法務(リーガル)とテクノロジー(テック)を組み合わせた造語。従前は、弁護士を中心に人を介して行われていた法務業務ですが、AI(人工知能)をはじめとするテクノロジーを活用することで、コストを下げたり、効率化に繋げることが可能となります。藤田さんは、より安価で便利にアクセスできるサービスを開発・提供することを通じて、法務業界の革新にチャレンジされています。

そして、藤田さんご自身も、弁護士のご出身。東大法学部を卒業し、四大法律事務所でパートナー弁護士まで昇り詰めた実力の持ち主。弁護士であれば誰もが憧れる地位を捨ててまで起業されたのは、大手事務所に所属していたときに、費用面で折り合いがつかず困っている中小企業に関われなかった思いから。

そこには、安価で便利なサービスを開発し世の中に普及させることで、多くの企業間紛争をなくし、争いごとによる負の感情を世の中から減らしたいという大義がありました。


4人のお子さんを育てるお母さん!

プライベートでは、4人のお子さんを育てる母親でもある藤田さん。なかなかお目に掛かれないような素晴らしいご経歴の傍らで4人の子育てまでこなされるなんて、一体どんなバリバリのキャリアウーマンなんだろう?と、恐る恐る(笑)お会いしたら、物腰の柔らかい可愛らしい女性で、良い意味で予想を裏切られました。

とても前向きで自然体、苦労話を苦労と感じさせない楽観的な思考と、ご本人も認める負けず嫌いがゆえの、芯の強さを感じました。大義を背景に新しい事業に挑戦される姿勢も、女性らしい愛に満ちた素敵な方だと思いました。

控えめで、静かな佇まいであるからこそ、仕事と子育ての両立や、仕事に対する考え方は、様々なお仕事をされる女性にとっても、参考になる点は多いのではないかと思います。

素敵な起業家のお話を是非お楽しみいただけましたら嬉しく思います。

藤田さんはベージュのワンピースに009 Verde d'Umbria(グリーン)を、廣田は003 Blu Veneziano(ブルー)を合わせています

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廣田: 本日は貴重な機会をありがとうございます!

今回のインタビューに先立ち、藤田さんのことを事前に知りたいと思って、掲載記事等を読ませて頂いたんですね。その中で、「私、本当に何もやりたいことがない、なりたいものもない、普通の子だったんです」って書いてあるのを見て、ちょっと驚いたんです。

正直、「いやいや、そんな子が東大法学部に行って、弁護士になって、4人の子どもを育てながら更に起業までするなんて、絶対にありえないだろう!!」と、思わず突っ込みを入れたくなりました(笑)。

相当なガッツや情熱がなければ簡単にはできないことをやり抜いていらっしゃるので、幼少期の頃にも、きっとその片鱗があるんじゃないかなと思ったのですが……。

本当に普通の女の子だった幼少期。入塾テストの惨憺たる結果が心に火をつけた

藤田さん: うーん……、よく「何かないのですか?」って聞かれるんですけれども、特筆することがないくらい、本当に普通な感じだったんですよ(笑)。

出身は広島ですが、父が関西地区を数年単位で異動する転勤族で。田舎で育ったこともあり、普通に近所で遊んで、学校に行って、って感じの本当に普通の女の子だったんですよね。

部活は、中学はソフトボール部でしたけど、そんな強くはなかったですし、普通に友達と帰りにコンビニ寄るのが好きだった感じで(笑)。高校時代は帰宅部でしたし……。

廣田: でも、お勉強はできた感じですよね(笑)?

藤田さん: うーん、まぁそうですね(笑)。ただ、田舎の公立の学校だったので。

あっ、そういう意味では、ひとつありました!中学2年生まで滋賀県の大津に住んでいたのですが、中3で神戸に引っ越したんです。

新しい自宅の近所にたまたま進学塾があって、それまで塾に行ったことがなかったし、高校受験もあるから、興味があって入塾テストを受けたんです。そしたら、受験科目だった英語、国語、数学が全て10点以下だったんです。

小柄なことに加え、弁護士というご職業柄もあり、ずっとパンプスを愛用されてきたそう。若い頃は見た目重視。年齢を重ねて歩きやすいものを選ばれるように

負けず嫌いの性格から、人生で最も勉強した3ヶ月間を経て、塾内で上位へ

藤田さん: それまでずっと田舎暮らしだったので、あまり勉強には苦労したことがなかったんです。「都会はレベルが違うんだ……」と衝撃を受けました。

そして、私、何かあるとすれば、すごく負けず嫌いなんです(笑)。

そのとき、「すごく悔しい」と思ったんですよね。でも、全教科10点以下だし、入塾できないだろうと思っていたら、塾の先生が入れてくれたんです。きっと、私がすごく悔しがっているのを感じて、この子は伸びるかもしれないと思ってくれたのかもしれません。

入塾後の2-3ヶ月は、もしかしたら、人生で一番勉強したかもしれません。学校に行っている時間以外、すべての時間を必死に勉強して、夜中までやってました。一生懸命頑張ったら、3ヶ月くらいで一番上のクラスに入れて、塾内で上位の何番かを取れるようになったんです。それ以降は、普通にしか勉強できなくなりました(笑)。

廣田: やっぱりありましたね(笑)!それまでは特段苦労しなくとも成績上位で、それが当たり前だと思っていたところに、藤田さんの心に初めて火がつけられたんですね!

それにしても、入塾できるかどうかというところから、3ヶ月で上位を取ることもすごいですけれども、その後普通に勉強しているのに、東大法学部と司法試験に合格されたことも相当すごいですね(笑)。

弁護士になるための司法試験の合格率はどのくらいなんですか?

藤田さん: そうですね。私が受験した頃は、現在の試験システムとは異なり、司法試験一本で、合格率も2-3%でした。

廣田: すごい世界ですね……。藤田さんは大学受験のときに将来の仕事を決めていたのですか?

藤田さん: いや、あまり決めてなかったですね。法律は高校で勉強したときに少し興味はありましたけれども、その程度でした。東大は、入学した後でも文系内で学部が選べるということもあって、とりあえず法学部にという感じでしたね。

試着タイム!004 Rosso di Kermes(レッド)か009 Verde d’Umbria(グリーン)に決めてきたそう!


個人の自由を守る法律の仕組みに感動したことが弁護士を目指すきっかけに

廣田: 浪人覚悟でその狭き門にチャレンジし続けるのは相当な信念がないと続けられないと思いますが、弁護士になろう、目指そうと思ったきっかけはあるんですか?

藤田さん: それが、大学に入って勉強したら、ものすごく面白かったんですよね。

例えば、刑事訴訟には、無罪推定の原則というものがあるんですね。10人のうち9人が殺人を犯し、1人が無罪だったとして、どの人が無罪かを突き止められないときには、全員を無罪とするほかない。

間違いなくこの人が犯人ということが証拠で立証できなければ有罪とはされないという仕組みがあるから、例えば、今香港で起きているようなことは日本では起こらないんです。こうやって私たちの自由が守られているんだと、その仕組みに感動して、「法律ってすごく面白いなぁ」と思ったんです。

廣田: なるほど、そこに面白さを感じられたんですね。それで弁護士になろうと?

藤田さん: そうですね、当時は、女性は資格があった方が仕事を続け易いだろうという考えの子も多く、同級生の女の子の半分くらいは受験勉強をしていたので、そういう環境もあって、私も一緒に勉強していましたね。

廣田: 女性って法学部にどのくらいいらっしゃるんですか?

藤田さん: 2−3割でしたね。弁護士業界も女性は2−3割なので、同じくらいですね。

廣田: 女性はやっぱり少ないんですね。でも、そんな狭き門に合格されたのは、すごいことですね。

卒業後無職で受験勉強。見事、2年目の春に司法試験を合格!

藤田さん: 在学中に合格するのはなかなか難しいので、新卒で就職できる卒業後2年以内に合格しなかったら諦めると決めて勉強していました。1年に一回試験があるので、大学4年生と、その後の2年で、3回の勝負でしたね。

大学在学中に合格できない人は、大学院に行って研究せずに受験勉強するか、単位を意識的に取らずに留年して受験勉強するか、卒業して無職で受験勉強するかの3パターンに分かれます。

親に経済面で負担を掛けたくなかったので、私は卒業して無職で受験勉強することを選択しましたが、無事、2年目の春に合格できました。その後、司法修習生として1年半の研修を経て、西村あさひ法律事務所に入所しました。

006 Giallo Limone(イエロー)もよくお似合いです!


弁護士2年目。肩身の狭い思いをしながら、第一子を出産

廣田: 弁護士事務所に入られてからのことについて教えていただけますか?

藤田さん: そうですね、実は司法修習生のときに結婚したこともあって、弁護士になってまだ2年目、27歳のときに第一子を出産したんです。

今は少子化対策もあって大分雰囲気も違うとは思いますが、当時は「えー、もう休むの?」的な空気感があって、非常に気まずい感じでしたね。

出産後は、朝、子どもを保育園に送って、保育園の迎えの最終時刻の20時15分まで必死に働いて、子どもをお風呂に入れて寝かしつけた後、午前2時くらいまで仕事して寝るという日々が続きました。

とはいえ、まだ、仕事の裁量権もないし、自分で時間をコントロールできませんから、仕事が容赦なく降ってくる中、保育園に時間までに迎えに行けず、保育園の先生にはいつも睨まれてましたね(笑)。当時はそれが本当に大変でした。

いい弁護士になりたいと思いながらも、当時はどこかで女性の逃げ道に甘えていた

藤田さん: 弁護士は、事務所に採用された後は、アソシエイト弁護士として雇用され、事務所の共同経営者であるパートナー弁護士の補佐的な業務を行います。アソシエイトとして経験を積んで、その中の一部の弁護士がパートナーとして経営に参画できるので、多くのアソシエイトは、パートナーになることを目指して日々業務に励むんですね。

私は当時、いい弁護士になりたいという漠然とした思いはありましたが、必要に迫られて、遅くまで残っていたという感じで、パートナーになりたいという意識はなかったんです。

ここで出世していくとか、他の弁護士と同じように戦っていく覚悟がその当時は足りてなかったように思いますね。女性には色々な逃げ道がありますが、そこに甘えていたようにも思います。今思えば、もっと違うことを考えながらその頃仕事をできていたら良かったなと思いますね。

廣田: 女性の逃げ道をどこかで考えていたとのことですが、いっそのこと辞めて子育てに専念しようとは思わなかったんですか?

藤田さん: それはなかったですね。負けず嫌いだから。お恥ずかしいんですけど、辞めるのは負ける感じがして(笑)。

廣田: なるほど、辞めたら自分に負けると思ったんだ(笑)。その芯の強さが藤田さんの素晴らしいところですね!

子育てしながら、ハードな仕事と留学に向けた試験勉強を両立

廣田: その後、一人目のお子さんを連れて、同期のご主人も一緒に留学されたんですよね?

藤田さん: はい。私が勤めていた事務所では、希望する全員に対して4年働くと学費と1年分の生活費を補助してくれる制度があったんです。夜中の2時に仕事が終わってから、留学のために英語の試験勉強をしていました。

殆どの弁護士がその制度を活用するので、同期とも、「今から勉強だよー(涙)」みたいな感じで連絡を取り合いながら(笑)。みんな今が辛すぎるから早く出たくて必死に勉強するんですよ。

廣田: うわー、それを子育てしながらやっていたなんて、本当にガッツあるなぁ!

そして、留学中にアメリカのリーガルテックに触れて、日本よりもかなり進んでいるのを目の当たりにされるんですよね?

藤田さん: そうなんです。ただ、その当時は自分でやろうとは全く思ってはなくて、純粋に便利なものがあるんだなぁと。「そのうち日本に来たら、いずれはもっと便利になるんだろうな」ってくらいの感じでしたね。

笑顔がとても愛らしい藤田さん


一つのミスも許されない緊張感が好きで、企業間紛争を専門分野に

廣田: そして日本に戻られて、本格的に弁護士としての活動が始まるんですね。藤田さんの弁護士としての専門を教えていただけますか?

藤田さん: 私は企業間紛争、特に国際仲裁を専門にしていました。若いうちから企業間紛争に関する訴訟に関わることが多くて。弁護士はそれぞれの専門分野があるのですが、例えばM&A(企業の買収・合併)などと異なり、企業間紛争は基本的に揉めごとなので、対立構造になるから嫌がる弁護士も多いんですね。

ただ、ひとつのミスも許されない状況や、それゆえの緊張感が、私は好きでしたね。

廣田: そこから起業しようと思われたきっかけについて教えていただけますか?

藤田さん: 勤めていた事務所の案件は、普段は大企業のお客様が殆どなのですが、ホームページからのお問い合わせ案件は、比較的中小企業のお客様からのものが多いんですね。

それらは、比較的若手のパートナー弁護士が対応させていただくんですけれども、そこでご要望をお伺いする機会があったり、営業活動などで企業にヒアリングしている時にも、世の中にはニーズがこんなにもあるのに、お応えできていないことがたくさんあるんだと常々感じていました。

また、訴訟案件の契約書を確認すると、契約書を交わす前にリーガルチェック(弁護士による契約書の法務確認)を受けていれば、もっと有利に進められたのにと、残念に思うことが多くありました。

一方で、大企業以外の企業が契約書のチェックを弁護士に依頼したがらない背景には、費用が高過ぎるという課題があることも理解していました。

値下げして中小企業へサービスを提供するも、アンハッピーな結果に。悶々とした思いが募る

藤田さん: なので、最初は値下げしてサービスを提供してみたんです。でも、先方からするとそれでも高過ぎて全く目線が合わず、お互いアンハッピーな結果に終わってしまう。そんなことを2−3年やり続けてみたんですけど、もう費用の問題でニーズにお応えするのは無理なんだって分かって、一旦諦めたんです。

ただ、問題解決できないことに対する悶々とした思いは、ずっと持ち続けていたんですね。

素晴らしいご経歴の持ち主ながら、終始謙虚でいらっしゃるのが印象的でした!

米企業からのサービス紹介で、法務の世界が変わることを確信。変わるなら、変える方をやりたい

藤田さん: そんな中、たまたま米国のリーガルテック企業から、英語の契約書を解析するサービスを紹介する機会をいただいたんです。

留学時にも、米国のテクノロジーを活用した法務サービスや業界環境が整っているのには驚かされましたが、その話を聞いて、「こんなことまで、できるんだ!」という感動と、法務の世界が確実に変わることを確信したんです。

そこで、全てが繋がったんです。

「テクノロジーの活用により価格を下げることで、中小企業に対しても十分なサービスを提供できるんじゃないか」、そして、「この法務の世界が変わるんだったら、変える方をやりたい」と。

廣田: それで起業へと舵を切られるんですね!

藤田さん: はい。そこからは早かったですね。

私は、ベンチャーのこと、またシステムのことも詳しくなかったので、それまで普段会っていなかった友人・知人にひたすら話を聞いて回りましたね。「こんなこと考えてるんだけど、どう思う?」って。

その中で、友人のひとりが興味を持ってくれて一緒にやろうと言ってくれて。思い立ってから2ヶ月くらいで起業を決めましたね。

今、この瞬間が一番若い。今やろう!今やらなかったら、もうやらないかもしれない

廣田: でも、大手事務所のパートナーの地位を捨てて、起業されることをご決断されるまでに迷いはなかったんですか?

藤田さん: 正直、当時の仕事には全く不満はなく、それなりに面白い案件も多くて、やり甲斐もあったんですね。なので、正直、めちゃくちゃ迷いました。

でも、もともと一回しかない人生だから、有効活用したいという思いがあったんですね。

これからどんどん歳を取る中で、これからの人生で今、この瞬間が一番若い。そして、チャレンジって人生でそんな何回もできない。

「今やろう!今やらなかったら、もうやらないかもしれない」って思ったんです。

争いごとは心に負の感情を残す。サービスを普及させることで負の感情を減らしたい

藤田さん: 私が、企業間紛争に長年携わっていて感じていたのは、争いごとは、時間もお金も使いますが、何より、心に負の感情を残すんですね。嫌な気持ちが残ることが一番のマイナスポイントだと思っていたんです。

「このサービスを開発して、世の中のたくさんの方々に使っていただくことでそういう負の感情を減らすことができたら、それって、すごいんじゃない!?」と思って。

それをやってみるのがとても魅力的に思えたんですね。

廣田: それが藤田さんの大義なのですね。いやぁ、感動しました!

(後編に続く)




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【プロフィール】

藤田 美樹(ふじた みき)

株式会社リセ 代表取締役社長、弁護士(日本・NY州)

東京大学法学部卒業、Duke大学ロースクール卒業(LLM)、司法試験合格、司法修習を経て、2001年西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所。
米国留学、NY州法律事務所勤務を経て2013年パートナー就任。 2018年退所、株式会社リセ設立。