HSインタビュー vol.3: 翻訳家 関 美和さん 「UX(顧客体験)改善がモチベーションの源(前編)」
HSインタビュー第3回目のゲストは、関 美和さん
Heading Southは、「Wardrobe designed to “move” you. 『動き出す』あなたのそばに、『感動』のいつもそばに」をブランドステートメントに、ありたい自分に向かってチャレンジする女性に寄り添い、応援する存在になりたいと願っています。Heading Southが理想とする女性像「ありたい自分に向かって、しなやかに生きるひと」にクローズアップする「HSインタビュー」第3回のゲストは、翻訳家の関 美和さんです。
大ヒット『ファクトフルネス』ほか、話題の洋書の翻訳を手掛ける人気翻訳家
関さんは、インタビュワー廣田の金融時代の元お客様で、昔から憧れの大先輩でもあります。金融業界から一転、現在は、翻訳家として、世界で200万部、日本で90万部を突破する大ベストセラーとなった『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』をはじめ、数多くの話題の洋書を翻訳される傍ら、大学での教職や複数社の社外取締役をこなされるなど、幅広い分野でご活躍されています。40歳を過ぎてからのキャリアシフトの背景や、思い立ったら何でもやり遂げてしまうそのパワーの源についてお伺いしました。
ブラックのニット、光沢のあるベージュのロングスカートに002 Ocra Rossa(ベージュ)のThe Soft Pumpをお選びいただきました
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HS: 今回インタビューさせていただくにあたり、関さんの現在のお仕事内容を聞いてとても驚かされたのですが、プロの翻訳家として翻訳をこなしながら、大学の准教授としてビジネス英語や翻訳論の教鞭を執り、更に、アジア女子大学(AUW)の理事や複数社の社外取締役も兼任されています。あれだけ多くの翻訳本を手掛けられながら、他にも多くのことをされていて、本当にすごいなと思うのですが、普段、どのように日々を過ごされているのかを教えてください。
関さん: ざっくりですが、大学で半分、翻訳で半分、残りの時間でその他のお仕事をこなす感じでしょうか。大学はフルタイムで教えているので、授業そのものに加えて、その事前準備にも時間を要しますし、関連する雑務もあります。それと並行し、翻訳を行っています。翻訳は、現在、3〜4冊程度を抱えています。同時に翻訳するというよりは、1冊ずつを1ヶ月くらい掛けて翻訳し、紙に起こし再校を重ねながら、平均3〜4ヶ月で出版まで持っていきます。異なる作業段階にある本を複数抱えているという感じですね。
正直、日本語に訳すと2−3時間で読めてしまう本が翻訳に1ヶ月、出版までに3−4ヶ月掛かるのはおかしいと思ってるんですよね(笑)。日本語と英語が同じ速度で完璧に理解できたら、1日で読める本は1日で翻訳できるんじゃないかと最初は思ったりしましたが、そこまでは早くならなくて。それでも、翻訳のスピードをもう少し上げられないかなと挑戦中ではあります。
HS: 関さんは金融時代もご活躍されていましたが、何故金融から翻訳家の道を目指されたのですか?
関さん: 実は、翻訳のお仕事は、自分からこれと決めて「好きな仕事を見つけた!」という感じではなかったんです。同じ金融業界で働く友人から15年くらい前に『I don’t know how she does it.』という洋書を勧められました。ファンドマネジャーで2児のママでもある主人公が仕事と育児の両立に奮闘する姿を描いたコメディタッチの小説でした。フィクションではあるものの、その当時の自分の境遇と重なりとても共感し、「これは自分が翻訳するしかない!!」と思いました。結局その本は翻訳できなかったものの、それが翻訳の世界に挑戦するきっかけになりました。
金融のお仕事は、ちょっとお休みしようかなと思って会社を辞めたタイミングがたまたまリーマンショック前で。その後、復職も考えたものの、リーマンショックを機に撤退する外資系金融機関も多い中、以前勤めていた外資系金融機関の日本支店長のようなトップマネジメントの求人が環境的に減ってしまったこともあり、なかなか良いご縁に恵まれませんでした。
そして、追い討ちをかけるかのように、プライベートで突如離婚することになったんです。気がつけば、シングルマザーで収入がない状態で。それで、目の前にあった翻訳のお仕事を本格的に始めることになりました。実は、ある思いがきっかけで、その後、法学部に入り直し、学生をやりながら翻訳の仕事を続けることになるのですが、在学中にヒット作に恵まれ、翻訳のお仕事の依頼が増えるようになりました。正直、他のお仕事の可能性も模索してはいたのですが、翻訳に時間を取られるようになり、気がつけば、翻訳家として10年が経ちました。ただ、そのきっかけから、未だ趣味のようにも感じています(笑)。
ファッションは大好きですね。ただ、この10年は家に居る時間が長いんですよ。家で過ごすときはパジャマかユニクロ、外出時はハイファッション。その落差を楽しんでいます(笑)
HS: 翻訳のお仕事をされながら、法学部に通われていたんですか!?
関さん: 実は、離婚のときに弁護士さんに複数お会いしたのですが、女性の立場で離婚を考えてくださる弁護士さんは意外に少ないなと感じまして・・・。知人にも相談したのですが、離婚を考えていて困っている女性は多くて、「みんな困ってるんだったら、じゃあ、私が弁護士になるか!」との思いで、法学部を受験し入学したんです。翻訳のお仕事を続けながら大学に通いましたが、私自身の問題が解決し、弁護士に頼る必要がなくなると、段々どうでもよくなってきちゃって・・・(笑)。結局、法学部は卒業したのですが、司法試験の勉強をするところまでは行かなかったですね。
HS: いやー、でもそのタイミングから弁護士を志し、更には法学部に入り直す行動力に感服します!ところで、大学で英語の教鞭を執られるようになったのは、どのようなきっかけからですか?
関さん: 杏林大学の准教授を5年ほど前から務めています。プロの翻訳者として、翻訳論やビジネス英語、作文なども教えていますが、翻訳の依頼を多くいただくようになり、腕利きの翻訳家が総勢で頑張っても到底訳し切れない数の本が世の中にあることを認識し、「ちょっと待てよ?」と思ったんです。よくよく考えたら、「みんなが英語で読んでくれたら、訳さなくても良いんだ!」と(笑)。もともと、日本は高等教育が充実し、数学や科学は特別な教育を受けなくとも世界でもレベルが高いのに、英語だけこんなにもレベルが低いのはおかしいとの思いも背景にありました。
HS: 思考の展開がものすごく面白いですね(笑)。でも、それと思ったら、さらりとやってのけてしまわれるのが、本当にすごいなと思います。
ところで、これまでお話をお伺いしていると、関さんのパッションやモチベーションの源は、目の前に解決されていない理不尽なことに対する義憤がパワーになっている感じがしますね。
関さん: そうですね。不便や不満を解消したい、UX(ユーザー・エクスペリエンス:顧客体験)の悪いサービスを改善したいという想いが自分の軸にあると思っています。たとえば、「翻訳本は読みにくい」とよく言われますし、実際に読みにくい。私も、大好きなノンフィクション作家の本が、日本語になるとまったく違う本になっていてがっかりしたことがあります。私が翻訳を続けるのも、そんな読者の不満を解消して読書体験を改善したいというミッションがあるからです。
ただ、自分のスキルセットに合っていなければ、UX改善はできません。たまたま翻訳は自分のスキルセットとUX改善したいと思っていたところがぴったり合っていたのではないかと思います。
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【プロフィール】
関 美和
翻訳家。杏林大学外国語学部准教授。慶応義塾大学文学部・法学部卒業。電通、スミス・バーニー勤務の後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得。モルガン・スタンレー投資銀行を経てクレイ・フィンレイ投資顧問東京支店長を務める。また、アジア女子大学(バングラデシュ)支援財団の理事も務めている
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