HSインタビュー vol.3: 翻訳家 関 美和さん 「UX(顧客体験)改善がモチベーションの源(後編)」

(HSインタビュー vol.3: 翻訳家 関 美和さん(前編)を読む)

HSインタビュー第3回目のゲストは、関 美和さん
Heading Southは、「Wardrobe designed to “move” you. 『動き出す』あなたのそばに、『感動』のいつもそばに」をブランドステートメントに、ありたい自分に向かってチャレンジする女性に寄り添い、応援する存在でいたいと願っています。Heading Southが理想とする女性像「ありたい自分に向かって、しなやかに生きるひと」にクローズアップする「HSインタビュー」第3回のゲストは、翻訳家の関 美和さんです。

大ヒット『ファクトフルネス』ほか、話題の洋書の翻訳を手掛ける人気翻訳家
関さんは、インタビュワー廣田の金融時代の元お客様で、昔から憧れの大先輩でもあります。金融業界から一転、現在は、翻訳家として、世界で200万部、日本で90万部を突破する大ベストセラーとなった『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』をはじめ、数多くの話題の洋書を翻訳される傍ら、大学での教職や複数社の社外取締役をこなされるなど、幅広い分野でご活躍されています。

後編では、アジア女子大学(AUW)での活動や、社会へ還したいとの思いの原点などについてお伺いしました。

―――――――――――――――――――――――

HS: アジア女子大学(AUW)の活動について教えてください。

関さん: アジア女子大学(AUW)は、バングラデュのチッタゴンに2008年に設立された女子大学です。バングラデシュの他、かつては最貧国だった周辺国のネパールやカンボジア、スリランカ、イエメンからの女性、また、ロヒンギャの難民キャンプ、繊維工場に働いている女性など、高等教育の機会がない女性たちに欧米並みのリベラル・アーツやリーダーシップ教育を与えるために設立されました。全額奨学金給付で、寄付以外に収入がないことから、継続的に資金集めを行う必要があり、私は理事として、日本国内での資金集めを担当しています。この取り組みは関わり始めて10年が経過しますが、他に類を見ない素晴らしい取り組みだと思っています。現在、900名程の生徒がいますが、これを3,000名、5,000名と増員していくことを考えると、更なる資金が必要となります。常に資金集めに駆け回っていることもあり、私自身が資産を築くことで、社会に還元できればとの思いも強くなっています。

HS:
 関さんの社会へ還したいというお気持ち、とても共感いたしますが、そのように考えられるようになったきっかけについて、教えてください。


関さん: 私は、炭鉱が閉山になった街の出身です。世の中が高度成長に入る中で、取り残されたような荒びれた炭鉱町で生まれ育ちました。私が小学校の頃、全国で最も高い生活保護率となるなど、経済的にとても厳しい地域でした。実家は、たまたま工場を経営していて、たまたま教育を受けさせてもらい、東京の大学に行き、アメリカの大学院に行くことができました。これらができたのは、自分が偉いとか、努力したとかではなく、「たまたま」だと思っています。この「たまたま」という偶然に恵まれない人が世の中の大半だと思っています。「たまたま」恵まれたからこそ、返さないといけないと思っています。

関さんその4

HS: その思いは昔からずっと抱かれているのですか?

関さん: これには2つのきっかけがありました。
ひとつは、アメリカの大学院に行ったことが大きかったです。大学院を卒業し、5〜10年経つと、成功する人が何人か出てきて、そういう人たちがみんな社会へ還す活動をしているのを見て、社会還元は、たまたま恵まれた私たちの義務だと感じるようになりました。

もうひとつは、昔お手伝いをしてくれたフィリピン人女性とのコミュニケーションがきっかけです。その方は、偶然にも私と同い年で、同じ誕生月でした。とても聡明な女性でしたが、本国に5人の子供を置いて出稼ぎに来ており、また、ご主人もいない中、一家が彼女の収入を頼りにしているという状況にありました。

あるとき、彼女が給料の前借りをしたいと私にお願いしてきました。快く先に給与支払いを行ったのですが、3回目にそれをお願いされたときに、私が嫌な顔をしてしまったのかもしれません。彼女に「できるものならば、私だってマダム(関さん)の立場に立ちたい」と言われました。誰かにお金を貸して欲しいとお願いするのは心苦しい。できるならば、貸すか貸さないかを決められる立場に立ちたいという意味だったのですが、それを聞いて、「本当にそうだな」と腹落ちしたんです。もしかしたら、彼女の方が私よりもっと優秀だったかもしれないし、私の立場に立てていたら、もっと成功できていたかもしれない、と。もう20年も前の話ですが、それが気付きになりました。

HS: 彼女は勇気を振り絞ってその言葉を関さんに伝えたのですね。聡明な女性ですね。

関さん: そうですね。気づかせてもらいました。そして、彼女みたいな方はもっと大勢いる。もっとその大勢に何かができればいいなと思うようになりました。

HS: お仕事でもプライベートでも洋書に触れる機会の多い関さんに是非お伺いしたいのですが、世界の状況に本を介して触れられる中で、今後の世界の変化について、感じられることがあれば教えてください。

関さん:
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』を翻訳して思ったことは、先ず、世界は全体で見れば、ますます豊かになるということ。そして、経済的に豊かになると、長い目でみると、社会は開放的でリベラル(進歩的)な思想へ向かうようです。それ自体は好ましいことだと思います。また、世界人口78億人のうち、約6割に当たる46億人はアジア人が占めますが、今後も、アジア圏では莫大な数の中流階級が生まれ続け、急速な経済成長が持続することが見込まれます。

一方、現在、日本の物価は、かつての最貧国と呼ばれていたアジア諸国の首都と比べても低いのではないでしょうか。また、賃金レベルも、かつては後進国と言われていたアジア諸国に比べても日本は低いと思います。更に、この10年で中間所得層の年収、平均年収、世帯年収の水準が下がっているのはアジア諸国の中で日本だけだと思うのです。

日本は、バングラデシュに対する最大の資金援助国ですが、今後10〜20年で逆転してもおかしくないと私は思います。すなわち、日本からアジア諸国へ出稼ぎに行かなければいけない可能性すらあるのです。

足元は、新型コロナウイルス感染症の拡大によりインバウンドの渡航は一時的に激減していますが、それ以前は、アジアから来日する渡航者は年々増加していました。上海からよく東京へ遊びに来る知り合いの若いカップルに何故日本を選ぶのかを聞くと、「滞在費もモノも安いから」との答えが返ってきます。立場が知らぬ間に入れ替わっていることに気づけず、日本は未だ先進国だと思っている人は、現実を見れていないと思いますね。

HS:
座右の銘、もしくは大切にしている言葉があれば教えてください。

関さん: 
2つあります。ひとつは、もう10年くらい前に出会った小説家、村上春樹さんのことばです。

「腹が立ったら自分にあたれ、悔しかったら自分を磨け」

悔しいことがあって、ムシャクシャした気持ちが解消されないとき、この言葉をポストイットに書いて、パソコンにしばらく貼っておくんです。しばらく経って、「なんで貼ったんだっけ?」と思えるようになったら、ポストイットを捨てています(笑)。

もうひとつは、同じく小説家の宮部みゆきさんの本の一節です。

「誰かの心ない言葉や行動で、自分が傷ついてしまったときには、自分の何気ない言葉で傷つけてしまった人に心の中でごめんなさいと言う」

HS:
どちらも心に響く、とても素敵なことばですね!

  インタビューを通じて、常に目の前の理不尽なことを解決したいという関さんの正義心の強さを感じたのと同時に、きっと、翻訳家としてのお仕事も関さんの人生の過程でしかなく、今後も、変わらない軸で新しい領域に颯爽とチャレンジしていかれるのだろうと思いました。私事ですが、今回10数年ぶりにお会いしましたが、謙虚で自然体で美しい姿勢に改めて尊敬の念を抱きました。貴重な機会を頂戴し本当にありがとうございました!

関さんその5関さん、お忙しい中貴重なお話をお聞かせくださりありがとうございました!

―――――――――――――――――――――――
【プロフィール】
関 美和
翻訳家。杏林大学外国語学部准教授。慶応義塾大学文学部・法学部卒業。電通、スミス・バーニー勤務の後、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得。モルガン・スタンレー投資銀行を経てクレイ・フィンレイ投資顧問東京支店長を務める。また、アジア女子大学(バングラデシュ)支援財団の理事も務めている