HSインタビュー vol.5-2: 産婦人科医/経営者 対馬 ルリ子さん 「女性が主体的に自分の人生を選択することを、医療の分野から助けたい(後編)」

HSインタビュー第5回目のゲストは、産婦人科医/経営者 対馬 ルリ子さん
Heading Southは、「Wardrobe designed to “move” you. 『動き出す』あなたのそばに、『感動』のいつもそばに」をブランドステートメントに、ありたい自分に向かってチャレンジする人々に寄り添い、応援する存在でいたいと願っています。Heading Southが理想とする女性像「ありたい自分に向かって、しなやかに生きるひと」にクローズアップする「HSインタビュー」の第5回のゲストは、産婦人科医/経営者の対馬ルリ子さんです。


日本のウィメンズ・クリニック設立のパイオニア
対馬さんは、国内の女性専門外来の黎明期にウィメンズ・クリニックを設立されたパイオニア。女性専門外来に対する理解が得られていない頃からその必要性を呼び掛け、2001年に女性のための生涯医療センターの立ち上げに参画された後、ご自身で、現在の「対馬ルリ子 女性ライフクリニック銀座」の前身となる「ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック」を開院されます。さらに、2012年には、新宿伊勢丹内に二拠点目となる女性ライフクリニック新宿を開院。現在、両クリニックの経営者及び理事長として診療に従事されながら、院外においても、女性支援活動に積極的に関与されています。

後編となる今回は、最も多忙な医科のひとつである産婦人科医として、仕事と子育ての両立をどう乗り切られたのかについて、また、女性医療に携わる専門医として、そして、ありたい自分を体現されてきたお立場から、様々なアドバイスをいただきました。
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二拠点目のクリニックは新宿伊勢丹内に開院
HS:
2012年に開院された新宿クリニックは新宿伊勢丹の地下にございますね。百貨店の中に女性クリニックなんて、とても興味深いと思ったのですが、どのような経緯からだったのですか?


対馬さん: 新宿伊勢丹では、世界中からナチュラル&オーガニックコスメを集積・編集し『BPQC』という売場を地下2階で展開していましたが、従来の化粧品にあるブランドの縦割りを取っ払ってコンシェルジュを置いたところ、健康相談が非常に多く寄せられたそうで、医療ときちんと繋がりたいとの思いから、当時ご担当だった小宮仁奈子さん(現 株式会社三越伊勢丹 MD統括部 化粧品グループ長(化粧品MD統括部長)執行役員)が相談に見えたんですね。構想から実現させるまでには時間を要しましたが、その後、売場が現在の『ビューティー・アポセカリー』にリニューアルされた後に開院することになりました。

驚かれるかもしれませんが、たった今レイプされたという方が緊急避妊や性感染症の検査でいらっしゃったりします。また、同様の理由で、地元では怖くて受診することができず、遠方からいらっしゃる方も。百貨店の中は安心なので、交番のような駆け込み先となっているのです。緊急事態宣言を受けて百貨店が閉鎖した際には、家庭内暴力が増えていたので、とても心配でした。「銀座のクリニックでよければ、予約なしでもお金がなくても来てください!」という発信をSNSで行ったところ、1,700名もの方がシェアしてくれて、「この分野だったら手伝えます」という声をたくさんの方が上げてくださった。嬉しかったですね。

対馬さんアップこちらを包み込むような優しい笑顔の対馬さん

より良い女性医療を実現したいとの情熱から、女性医療ネットワークを立ち上げ
HS:
対馬さんは、女性医療の理念共有とレベルアップを目的に、2003年にNPO法人女性医療ネットワークを設立されたとお伺いしました。活動内容や立ち上げ時の思いについて、教えていただけますでしょうか?

対馬さん: 女性医療ネットワークは、女性外来を運営している医師たちが、助け合い、連携するために結成されました。性差医療に対する考えが遅れている日本において、女性外来を立ち上げ、全人的な医療をめざして悪戦苦闘している医師たちが、「手を組んで一緒にできることはないか?」と医科や施設、活動地域、性別を越えて連携し、より良い女性医療を実現したいとの情熱をもって、35名の初期メンバーにより結成されました。当時、私自身、産婦人科医として15-6年くらいのキャリアはありましたが、自分の専門分野のことは理解していても、女性の生涯を通じた健康問題や課題に対するアプローチはまだ理解が少なかったので、先ずは勉強だと思いました。

設立当初、次の5つの視点を定めました。1)臨床の視点。患者さんを診て、本当に何を求められているのかを知ること、2)科学の視点。医者はサイエンティストである必要があり、科学的にデータを取得し、理解すること、3)当事者の視点。患者はもちろんのこと、医者もまた女性医療の当事者であり、医療を受ける患者にもなり得る。その視点を失わないこと、4)ジェンダーの視点。女性が低く見られていたり、差別を受けていたり、語られてこなかった性の課題があることを認識し、その視点を医療に取り入れること、5)友人の視点。英語のnarrative(物語)という視点を日本語に意訳したものですが、その人の歴史から今が作られ、未来がそこからつながっている。ずっと寄り添って見ていく友人としての視点を持つこと、の5つです。

当時、「当事者の視点」「ジェンダーの視点」「友人の視点」はとても画期的で、それまでの医学会、研究会、医師の集まりには、これらの視点は一切ありませんでした。これらの視点を大事にしてきたからこそ、女性医療ネットワークは様々な活動を行っても、根底に信頼される女性医療の改革の担い手になることができたと思っています。現在は、全国約600名の女性医師・女性医療者と連携して活動し、さまざまな情報提供、啓発や政策提言を行っているんですよ。

HS: まさに、同じ時代を生き、同じ志を有する医師たちが、切磋琢磨して女性医療の世界を切り拓いてこられたのですね。本当に素晴らしいと思うと同時に、今このような女性医療が日本で受けられるのは、対馬さんをはじめ、ご尽力されてきた医師や医療従事者の皆さまのおかげですね。

対馬さん靴選びこの日のお洋服に004 Rosso di Kermesをお選びいただきました。ブラウンのワンピースにぴったりお似合いでした!

アイディアで切り抜けた仕事と子育ての両立
HS:
産婦人科は、医師の在院時間も長く当直も多いなど、最も多忙な医科のひとつかと思います。その中で、お二人のお嬢さんを育てられたそうですが、どのように両立されたのでしょうか?

対馬さん: 私はアイディアで切り抜けましたね。うちの子供たちには、ずっと面倒を見てくださったお父さんとお母さんがいるんです。上の子がまだ1歳に満たない頃に、3センチ角の小さな新聞広告を出しました。普通の広告では先ず目に留めてもらえないだろうと思って、「私の名前は、れいな(お嬢さんのお名前)です。パパもママも医者でとても忙しくていつも家にいないので、ママがいない間、面倒見てもらえる人を探しています。つしま れいな」って広告を出しました。2-3万円くらいの出稿費だったと思いますが、35名も応募があって(笑)!

面接の結果、自宅に近い方が面倒を見てくださることになりました。お父さんは少年野球チームの監督で子供の面倒見が良く、また、先方のご家庭にも、お兄ちゃん、お姉ちゃんがいて、お父さんのお膝の上でご飯を食べさせてもらったり、一緒にお風呂に入れてもらったり、お母さんには公園にお散歩に連れて行ってもらったりと、末っ子のように皆で面倒を見てくれました。今、上の子が33歳なので、32年のお付き合いです。私たちにとっては、家族の一員です。

HS: 子育てと仕事の両立に悩まれている方や、仕事が忙しくて、出産や子育てに不安を感じる女性も多いかと思うのですが、アドバイスはございますか?

対馬さん: やりたいことは絶対に諦めず、先ずはやってみることです。日本の女性は相対的に自己価値観が低いと思うんですね。想定される困難を考えて、「できないに違いない」とか尻込みするけど、やってみると状況は開けてくるし、視野が変わってきます。難しそうだと思っても、知恵を絞ってあれこれ考えると、アイディアは出てきます。最初から難しそうだからやめるとか言わないで、まずはやってみて欲しい。

娘たちは、「ママだって自分が好きなことやってきたじゃん。だから、私たちだって、好きなことやってもいいよね」と言います。好きなことを楽しそうにどんどんやっていると、それに続く人は自分もできると思えるようになります。楽しく生きる、楽しく仕事する。やりたいことは諦めずにやる!

HS: ありがとうございます!次に、ウィメンズ・クリニック代表として、女性へ是非アドバイスをお願いします。

相談できるかかりつけ医を是非持って欲しい
対馬さん:
健康は、若い時から身体と心と生活のウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)です。健康を育てていくつもりで、自分の心やからだを大切にして、相談できるかかりつけ医を是非持って欲しいと思います。

妊娠・出産・更年期は、産婦人科医が詳しいものの、かかりつけ医は必ずしも産婦人科医である必要はありません。内科でも女性医療を研究している医師はいますし、歯科でも、女性の口腔内の状況は男性と異なり、ホルモンと密接に関わっているのです。あらゆることにおいて、女性ならではの特性があり、女性医療の研究、勉強をしている人は増えています。そういう人をかかりつけ医にして欲しいと思います。

二人立つインタビューを通じて、対馬さんからたくさんのパワーを頂きました!貴重な機会を頂戴し本当にありがとうございました!

HS: 常にチャレンジされ、ありたい自分を体現されてきた対馬さんに是非お願いしたいのですが、チャレンジしたいけど踏み出せない人、何をやりたいか分からず模索中の方に、アドバイスやメッセージをいただけますか?

やってみたいと思うことを先ずやってみること、人に期待することをやめること
対馬さん:
大層なことをチャレンジしなくても、何かやってみたいと思うことをやってみることがとても大切です。先ず、小さな一歩を踏み出すと、視野や人間関係が変わっていきます。次に、人に期待することをやめることです。人は、主体的に動く人と良好な関係を持つことができます。あの人がこうしてくれないからと、うじうじしても、その人との関係は良くなりません。自分と周りの世界との関係を明るくて楽しいものにするためには、自分が主役でなきゃ。自分がこの人生を作っていくんだという気概を持つこと。せっかくこの時代に生まれてきて、長生きと言っても100年以上は生きられないんです。生きている間にできることは何でもやってみることです。

その結果として、思っていたことと違っても、それは良い学びになるし、やってみて良くなかったということは絶対にありません。失敗は生かせばいいし、良いと思ったら、もっと膨らませればよいのです。良いと思うこと、ダメだと思うことも、状況、年齢、環境で変わっていきます。これはマル、これはバツと決めつけないで、素直な気持ちで受け取って。ナチュラルに自分を発露すると、自分が生きたい楽しい良い世界に踏み込めると思いますよ!

HS: 最後に、座右の銘、もしくは大切にしている言葉があれば、教えてください。

夢は是非持ち続けて!
対馬さん: 講演などでいつも最後にお伝えすることがあります。
「皆さんに100%保証します。あなたたちが望んでいることは、必ず叶います。夢として抱いていることは、必ず叶います。夢を持ち続け、諦めずに進んでください。」
ダメだと思ったら、可能性はゼロになります。夢は持ち続けることが大切。脳は単純です。100%の心理で、見ている方向、やりたいと思っていること、1ミリでも近づこうとしてやっていることは、脳はできている気になり、気づいたらできるようになっていきます。これは、脳科学的にも実証されていることです。諦めないでいると、100%叶うので、夢は是非持ち続けてくださいね!

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【プロフィール】
対馬ルリ子
1958年青森県弘前市生まれ。84年弘前大学医学部卒業、東京大学医学部産科婦人科学教室入局、東京都立墨東病院周産期センター産婦人科医長などを経て、2001年女性のための生涯医療センターViVi設立、初代院長就任。2002年ウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック(現・対馬ルリ子 女性ライフクリニック銀座)開院、03年NPO法人女性医療ネットワーク設立、12年女性ライフクリニック新宿開院。17年日本家族計画協会「松本賞」、「第46回デイリー東北賞」、18年東京都医師会・グループ研究賞受賞。医療法人社団ウィミンズ・ウェルネス、女性ライフクリニック銀座・新宿 理事長。東京大学医学部大学院非常勤講師。産婦人科医師、医学博士。

 

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