HSインタビュー vol.8-2:柚木 和代さん(小売業)「会えば、必ずファンになる。人をワクワクさせる凄腕経営者(後編)」
HSインタビュー第8回のゲストは、柚木 和代さん
Heading Southは、「Wardrobe designed to “move” you. 『動き出す』あなたのそばに、『感動』のいつもそばに」をブランドステートメントに、ありたい自分に向かってチャレンジする人々に寄り添い、応援する存在でいたいと願っています。Heading Southが理想とする女性像「ありたい自分に向かって、しなやかに生きるひと」にクローズアップする「HSインタビュー」の第8回のゲストは、柚木 和代さんです。
会えば、必ずファンになる。人をワクワクさせる凄腕経営者
柚木さんは、大手百貨店グループの女性役員。43歳で最年少かつ同社初の女性店長に就任し、その後も、柚木さんが店長に着任した店舗は、地域一番店に輝いたり、業績が飛躍的に向上したりと、数々の結果を残されてきた、実力ある経営者。
後編となる今回は、筆者が柚木さんの一番の魅力だと考える「人を鼓舞し、巻き込む力」について、柚木さんが意識して実行されてきたことや、新卒入社以降、ずっと同じ会社で働いてきた柚木さんならではの、チャレンジしたい方へのアドバイスなどについて、お伺いいたしました。
是非お楽しみいただけましたら、嬉しく思います。
笑顔が素敵な柚木さん!
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廣田: 私は、柚木さんが札幌店長のときに初めてお目に掛かりましたが、一緒に店内を歩かせていただいたときのことを、未だに鮮明に覚えてるんですよ。御社社員の方だけでなく、取引先ブランドの社員さんが近寄ってきて、とっても楽しそうに、気軽に会話されているのを目の当たりにして、衝撃を受けたんですよね。
というのも、百貨店って、基幹店舗クラスになると、社員やパート・アルバイト、取引先の従業員まで含めると千名規模になるじゃないですか。普通は、こんなに距離が近くないわけですよ。
小売業は人が最大の資産で、各々がモチベーションを持って働くことができれば、結果は全然違ってくる。こんなに皆をポジティブな力で吸引し巻き込める方って、そうそうお目に掛かれないなって、お世辞抜きに、めちゃくちゃ感動したんですよ。
もちろん、お人柄によるところも大きいとは思いますが、どうしたらこんなに皆のモチベーションを上げられるんですか??店長時代、何か意識して実行されていたことはございますか?
柚木さん: うーん、札幌店は、当時オープンしてまだ5年目の店舗で、地域一番店を目指して追い掛ける側だったから、マネジメントはし易かったとは思いますね。皆の目指す方向も揃っていたし、実際に、店長着任の翌年には、北海道内の一番店になりましたからね。
戦いやすい環境ではあったけれども、その中で、店長を身近に感じてもらえるようにやっていたことで、その後、異動して他の店舗の店長になっても継続していたことといえば、ランチミーティングかな?
廣田: ランチミーティング!是非教えてください!
社員・パートナー全員と面談するランチミーティングを毎週実施
柚木さん: 社員、パートナーを含めて全員とのランチミーティングを継続的にやってましたね。店長室には8名入るので、基本週1回、合計80回くらいやったと思うわ。「仕事の話はしない」という基本ルールを設けて、質問や話のネタを作りやすいように、著名人なんかと一緒に撮った写真を飾ったりしてね。
札幌のときは若くて記憶力もあったから、座席表の名前を見ながら、出席者の顔と名前、趣味や家族構成など、その時に話したことをメモに取って、あとで必死に頭に叩き込んでましたね。
で、売場でその子に会うと、「あ、〇〇さん、自宅で栽培しているナスはどう?」みたいな。それを繰り返すことで、完全に覚えられる。受験勉強と同じやね(笑)。その頃は、従業員の名前と顔、趣味などは全部言えたと思うわ。
ランチミーティングは札幌以降の店舗でも継続しましたね。
廣田: 柚木さん!そこが柚木さんの凄いところなんですよ。普通やろうと思っても、そんなことなかなかできないんですよ。
だって、売場で柚木さんに名前呼ばれてランチのときの話とかされたら、飛び上がるほど嬉しいじゃないですか!?それってすごいモチベーション上がりますよね。「この人のために頑張りたい!」って思うじゃないですか。今、話聞くだけで、涙出そうになりましたもん(笑)。
柚木さん: いやいや、そのときはね、女性の店長だったし、若かったのもあって、店長を身近に感じて欲しかったのよね。いつもそうなんだけど、そんな特別じゃなくって、普通の人だと思って欲しくて。実際にそうだし。それ、本当にそんなすごいこと??
廣田: 柚木さんの中で当たり前のことが、世間では当たり前じゃないことが多いんですよ。私が尊敬する大好きなところでもありますけど(笑)。
最後は、ブルータイツに001 Neroを合わせて
廣田: 柚木さんは、芦屋店、札幌店、神戸店、株式会社博多大丸と、様々な地域で店長を歴任されながら、観光大使や市の顧問など、地域社会への貢献活動も色々されてきたかと存じます。その中で、特に印象深かったものがあれば、教えてください。
母校で学生時代の夢だった教鞭を執る
柚木さん: それぞれに思い入れはあるけど、ひとつ挙げるとしたら、神戸大丸店長時代に、母校の京都精華大学の非常勤講師をやらせていただいたことかな。教員免許まで取ったくらいなんで、大人になって若かりし頃の夢が実現しましたね。
半年の間、毎週、全部で15コマの授業があり、単位も付与される授業を受け持ちました。シラバス(授業計画)や講義資料を作成して、生徒たちが提出してくれたレポートをチェックしたり・・・。店長をやりながらだったので、本当に大変でしたね。
廣田: すごい!神戸店長の傍らで、教鞭を執られていたんですね!?何を教えられたんですか?
柚木さん: 教授からは何でもいいよと言っていただいたので、自分なりに何が必要かを考えて、結果、マーケティングからものづくりへの流れについて、事例を合わせながら講義を行いました。
学生って、基本、ものづくりに興味や情熱があるじゃないですか?でも、ものづくりは、本来、モノを作るまでに消費者心理や世の中の流れなどを掌握したうえで、モノに変化させ、デザインに活かすというプロセスが必要だと思うんです。ただ、ものづくりばかりに心を向けると、技術だとか、素材だとか、表面的なテクニックに走りがちになってしまう。
プロダクトデザインとかマーケティングをそういう視点で考える講義ってなかったので、それを教えようと思いました。
廣田: 消費者や時代に受け入れられるモノは何かという、マーケットイン的なアプローチの必要性を考えさせるわけですね。
それは小売業に長年従事されてきた柚木さんらしい、とても素晴らしい視点だと思いますし、プロダクトアウトになりがちな学生さんたちにも、その視点も必要であることを是非知ってもらいたいですよね。
さぞ評判良かったんじゃないですか?
柚木さん: ありがたいことに評判は良くて、生徒たちからは、来期も続けてくれたら後輩に勧めたいとか、教授にも継続して欲しいとお願いされたのですが、プロダクトデザインとかマーケティングって常に新しいものであり、翌年に同じ教材を転用するわけにもいかないじゃないですか。
さすがに、継続的に資料を作るのは時間的にも難しく断念しましたけれども、生徒たちからのフィードバックを読んで、感動して続けようかと心は揺れましたね(笑)。
廣田: 座右の銘、もしくは大切にしている言葉があれば、教えてください。
柚木さん: 昔はね、他にもあったんだけど、今は吉田松陰の『夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし』ですね。
廣田: あー、これは響きますね。そして、まさに常にパッションを持って仕事をされている柚木さんらしいですね。
廣田: 次に、チャレンジしたいけれども踏み出せない人、何をやりたいか分からず模索中の方に、アドバイスやメッセージをお願いします。
無理に考えず、そのときの環境に委ねることがあってもいい
柚木さん: 正直、私だって、未だに何をやっていいか分からずにいるんよ(笑)。
私は社会人になって、ずっと同じ会社に何十年もいてね、将来が見えず、その時々の仕事を続けるのが不安だったことが何度あったことか。自分が部署を転々とする傍らで、ずっと同じ部署でスキルを磨き、その領域のスペシャリストになっている同僚が羨ましかったんだよね。
で、若い頃にね、人事担当者に、「私は、あの部署、この部署と異動し、スペシャリストになれず、この先が不安なんですよね」とぶつけてみたの。そしたらね、人事の方が、「君はな、そんなこと考えなくてええねん、一生懸命仕事してれば。それは会社が考えるから!」って言われて(笑)。実は、この言葉で何だかすごく気が楽になったんですよね。
何かやらなきゃいけないと無理に考えるんじゃなくて、そのときの環境に委ねるということもあっていい。自分がこのままでいいのか結論が出ないときは、そのときに言われたことを思い出して、自分で自分を追い詰めないようにしてます。
ステレオタイプに惑わされず、自分で決める
チャレンジしようか迷っている人に対するアドバイスも同様で、「やらないで後悔するより、やって後悔した方がいいよ」とか、「失敗を恐れずやりなさい」としか、昔は言ってなかったけど、今はね、「やるかやらないを決めるのは、自分」だと思ってて。
悩んでいるんだったら、納得するまで悩んだらいい。「こうしなければならない」という、世の中のステレオタイプ的な意見に惑わされる必要はないと思います。もちろん、既に結論を持っていて背中を押してくれる一言が欲しいんだなと感じた場合は、「ドーン」と転ばぬ程度に背中を押しますよ(笑)。
『会えば、必ずファンになる』。何度お会いしてもそう思います
廣田: 最後になりますが、柚木さんは、この先やりたいことってあるんでしょうか?
柚木さん: 今日はね、廣田さんが私のマネジメントスタイルについて随分ほめてくれたけど、マネジメントスタイルを自分自身でコントロールでき始めたのはここ数年のことだと思うの。
正しいことだったら厳しく言ってもいい、部下のためなんだからという気持ちが前面に出てしまい、それによって、傷つけてしまったこと、失敗したこともたくさんあるんですね。
今、その一つひとつをやり直すことはできないけれど、その失敗や反省をこれから先の仕事や生き方の中で活かしていけたらなと思います。学んできたことは後輩のため、社会のために役立たせたい。自分が少しでもできることを見つけて、惜しみなくやっていきたいと思っています。
廣田: 私は、柚木さんほど、チャレンジしたい人を鼓舞できる方は本当に稀有だと思っているので、柚木さんには、是非、世の中のためにも、たくさんの人を鼓舞するお仕事をしていただきたいです!
今日は貴重なお時間を本当にありがとうございました!
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【プロフィール】
柚木 和代(ゆのき かずよ)
東京生まれ、兵庫県西宮市育ち。京都精華大美術学部デザイン科を卒業後、1983年3月株式会社大丸入社。パリ駐在などを経て2004年3月、初の女性店長(兵庫・芦屋店)に。2008年1月札幌店長、同年5月執行役員に就任し、2009年に年間売上高で北海道内百貨店首位に導く。2010年3月株式会社大丸松坂屋百貨店執行役員、2012年5月大丸神戸店長事務管掌、2015年1月社長特命事務担当、同年3月株式会社博多大丸顧問、同年5月株式会社大丸松坂屋百貨店常務執行役員 兼 株式会社博多大丸代表取締役社長、2019年5月J. フロント リテイリング株式会社執行役常務(現任)、関連事業統括部長(現任)。趣味はロックライブ鑑賞。